ルドゥーテと私
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恥ずかしながら、今年初めてちゃんとルドゥーテが描いたバラの図譜を見ました。なぜ今までちゃんと見てこなかったかというと、花弁数の少ないバラが好きということが原因したと思っています。
誤解が無いように言うと花弁数が少ないバラに好きな品種が多いということです。花弁数の多いバラも好きな品種は沢山あります。
しかしながら、日本でルドゥーテの展覧会の表紙を飾るバラやパンフレットに載るバラはケンティフォリアのような花弁数の多いバラばかりで、なんとなく花弁数の多いバラを描いた人というイメージが頭の中にこびりついてしまったのだと思います。
世の中に出回る情報というものは物事の表面的な一部でありしっかりと自分の目で確かめて自分の考えを持つということがどれほど大切かということを考えさせられます。
今回私が目にしている本は Les Roses バラ図譜[普及版]注1)ですが。
この図譜を見てみると花弁数の多いバラと少ないバラはほぼ同じくらいの割合で記載されていることに気づかされます。決して花弁数の多いバラだけが載っているわけではありませんでした。
この図譜には今では見ることが出来ないようなバラの品種も描かれていて、見る度に発見があります。失われてしまったのか、世界のどこかに埋もれているかもしれないバラのことを想像するだけでも楽しくもありますが、私にとっては新しい品種を考えるヒントになっています。
ルドゥーテが描いてくれた沢山の品種の蕾や枝葉やトゲの形、色彩が花に与える印象の違い,それらのバランスを見比べながら、自分が美しいと思う組み合わせを探しています。
例えばこのバラ
Rosa pimpinelli-folia inermis ロサ・ピンピネリフォリア・イネルミス
この品種が今どこかに存在しているのかは調べても分からないので定かではありませんが、私はこのバラが非常に美しいと思っています。
紫の細い枝に紫色の蕾、蕾の花弁のピンク、開いた花弁の白がベースで端に入る淡いピンク、スピノッシシマ系の細かい葉。この全てのバランスが絶妙に調和しています。
私はもう一度こんな美しさをもったバラを生み出してみたいとさえ思うのです。
話は変わりますが、この図譜に載っているRosa sepium myrtifolia ロサ・セピウム・ミルティフォリアというバラが昨年海外から仕入れたRosa minutifolia alba ロサ・ミヌティフォリア・アルバ という品種と類似していることに気が付きました。名前は違いますが同一品種ではないかと考えています。
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こんな風に世界の何処かに失われてしまったと思われるバラが名前を変えて埋もれてしまっていることもあるのだなと思います。
このように私にとって、この図譜は現在と過去をつないでくれる存在であることに気づかされました。
ルドゥーテは未来にそんなことを考えて見られるとは思っていなかったと思いますが。
このバラ図譜はある意味、クラッシック音楽の楽譜のようなものだという気がしています。
ピアニストが古典音楽の楽譜をその時代の感覚で解釈し表現するように、
私は育種家として、もう一度この図譜を見つめなおすことで、失われた過去を手繰り寄せるだけでなく、より今を響かせることが出来るのではないかと思っています。
注1)画 ピエール=ジョセフ・ルドゥーテ『Les Roses バラ図譜[普及版]』
(株式会社河出書房新社、2012)